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tsenshu

高野達也の演出ノート 

No1 本番直前は集団ヒステリーに

どんな芝居にしろ、初日の幕が上がるまでの緊張感といったら、それはもう口では表現できぬほどのものである。

ましてこの劇団の芝居は初日と同時に千秋楽、つまり一回限りの芝居なのだ。

もちろん、リハーサルの時間は前日も含めて取ってあったのだが、仕込みの時間が大幅にずれ込みゲネプロが本番前の三時間前になってもなかなかやれず僕は焦りに焦っていた。

それでも何とか気持ちを表に現わさないよう、楽屋や舞台にいる役者(患者)に冗談を飛ばしては平静さを何とか装っていたのだった。

しかし、本番の二時間半ぐらいにようやく仕込みが終わろうというとき、僕はのろのろしているスタッフの一人を怒鳴りつけてしまった。このことから、患者の緊張の中に、明らかに異なった心理的な圧迫感を呼び起こしたようだった。僕は直接目にしていないが、舞台裏では仲間うちの争いがあったらしいし、ある女性がゲネプロの最中、スタッフの段取りのミスをヒステリックになじったり、またその日のコンディションの悪かった人はなんとなく自暴自棄的な態度を見せるのだった。要するに集団的なヒステリック状態になったようだ。それでも本番を迎えるまでには何とか破綻をきたさずに乗り越えることが出来たのは、医師、看護婦、看護士の親身なケアがあったことはもちろんだが、やはり今夜の舞台を絶対に成功させようという患者たちの必死な気持ちがあったからだと思う。

幕が上がった。歌が聞こえ、少女たち三人が現れた。僕はもう彼らをひたすら信用するしかなかった。




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